HbA1cについて
HbA1cとは?
健康診断の基本的な検査項目の一つであるHbA1cは、糖尿病のリスクを判定するための指標となります。
血中の赤血球を構成するタンパク質であるヘモグロビンは、肺から受け取った酸素を全身の隅々まで届ける役割を持っています。「ヘム(ヘモ)」は鉄原子を中央に置く構造となっており、酸素が結びつきます。また、ヘムは赤色の色素を持っているため、血液の色も赤く見えます。「グロビン」はタンパク質を表します。
ヘモグロビンは血中の糖と結びつきやすい性質を持ち、その中でブドウ糖と結合したものがHbA1cです。
血糖値との違いは何?
糖尿病を検査するためには、血糖値検査で血中のブドウ糖濃度を確認し糖尿病のリスク判定を行います。以下で「HbA1c」と「血糖値」がどう違うのかを説明します。
血中の血糖の濃度は、直前の運動や食事の影響を受けやすく、一時的に上がったり下がったりします。そのため、検査するタイミングによって血糖値は変動し、空腹時血糖値や随時血糖値など、検査したタイミング毎に別物と考えることが重要です。
一方で、HbA1cはブドウ糖とヘモグロビンの結合割合を表す値です。赤血球は120日くらい生存するとされており、生存中にブドウ糖とヘモグロビンが結びつきます。また、血液検査の日から起算して直近1〜2ヶ月間の血糖値の平均値とHbA1cの値には相関関係があると考えられています。そのため、HbA1cは直前の運動や食事の内容に左右されることなく、直近1〜2ヶ月間の血糖の平均的な状態を示すものとして糖尿病のリスク判定の指標とされています。
HbA1cの正常値
日本糖尿病学会が定める糖尿病治療ガイドラインの基準では、HbA1cの正常値は4.6〜6.2%、特定保健指導の基準では5.6%未満とされています。また、日本糖尿病学会の基準では下の表のようにも考えられています。
6.5%以上 | 糖尿病の疑いが強い |
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6.0〜6.4% | 糖尿病の可能性はゼロとは言えない |
性別や年齢によっても正常値に違いはありますが、平均値は5.5%未満と言えます。
糖尿病の診断を受けている方は、深刻な合併症の発症を防ぐためにもHbA1cの値が7.0%を超えないように管理することが重要です。
HbA1c値が高いと疑われる糖尿病とその概要
HbA1cは直近1〜2ヶ月間の血糖の平均的な状態を示すものですが、この値が高いということは血糖値が慢性的に高い状態だと分かります。
HbA1cの値が6.5%を超えると糖尿病の疑いが強まり、ブドウ糖負荷試験など別の検査を受けることが必要です。また、8.4%異常となると糖尿病の複数の合併症を発症する危険性が高い状態ですので注意が必要です。
糖尿病とは?
食事から摂取した糖質が消化吸収されるとブドウ糖に変化し、血液を通して全身に送り届けられます。臓器や筋肉はブドウ糖をエネルギーの材料としています。特に、脳のエネルギー源はブドウ糖しかないとされています。
取り込んだ糖質が血糖に変わって血中に流れ出ると、膵臓のランゲルハンス島でインスリンというホルモンが分泌されることで、臓器や筋肉でブドウ糖がエネルギー源として利用されたり、肝臓などでグリコーゲン(貯蔵多糖)が効果的に生成されたりするようになります。したがって、インスリンは血糖をスピーディーに処理することで血中濃度を適性に維持する働きをしていると言えます。
しかし、インスリンが何かしらの理由でうまく機能しなくなると、血糖の処理にも支障をきたし、血糖値が慢性的に高い状態となります。一定ラインを超過すると高血糖状態となり、糖尿病と診断されます。糖尿病は発症原因によって1型と2型に分類されますが、日本の成人の患者様の9割程度は2型であり、運動不足や肥満などの生活習慣の乱れが原因で発症します。
糖尿病の症状
発症間もない時期は自覚症状が乏しいと言われています。尿中に糖が含まれますが、目視で確認することはできません。次第に排尿回数が増加し、のどがすぐに渇くようになって水分の摂取量が増加します。また、通常はエネルギー源として利用される糖が尿と一緒に排出されるため、代わりに体内の脂肪やタンパク質をエネルギーとして利用することで、体重減少が起こったり、疲れやすい状態になります。
糖尿病が進行して血糖値が上昇すると、全身の血管にダメージが及びます。特に、糖尿病の三大合併症である、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病腎症といった深刻な合併症のリスクが高まります。
糖尿病神経障害
神経障害によって手足の痛み、しびれ、感覚麻痺が起こります。また、血行が悪化することで、潰瘍や壊死が起こり、最悪の場合は切断を余儀なくされることもあります。
糖尿病網膜症
網膜内の血管で出血が起こることや、酸素や栄養が不足することで、網膜乖離が起こり、最悪のケースでは失明することもあります。
糖尿病腎症
尿に血中の蛋白が流出することで、血中の蛋白が減少し、全身がむくむようになります。また、胸に水が溜まって酸素が足りなくなるため、呼吸から足りない酸素を補給しようとします。さらに、血中の老廃物を取り除く腎臓の糸球体の働きが低下することで、老廃物を体外に排出できなくなり、人工透析が欠かせない状態となります。
また、糖尿病によって大血管の動脈硬化の進行リスクが高まります。そのため、休憩を挟まないと長時間歩けなくなる間歇性跛行といった症状や、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な合併症が起こる恐れもありますので注意が必要です。
糖尿病の原因
1型糖尿病の原因は、自己免疫疾患によって膵臓の細胞が破壊されインスリンの分泌量が減少することです。
2型糖尿病の原因は生活習慣病であり、日本の成人患者様の9割程度が2型に該当します。
日本人は生まれつきインスリン分泌が弱いとされており、さらに、脂肪や炭水化物の過剰摂取、肥満、運動不足、ストレスなどの要因が複合することで、糖尿病の発症に繋がります。また、肥満状態でなくても内臓脂肪が多いメタボリックシンドロームの方も発症リスクが高いと言えます。
その他、お薬や病気の影響、妊娠などが原因となることもあります。
糖尿病の治療方法
糖尿病を完治させる治療法は存在しませんので、合併症の発症予防と患者様の健康寿命・QOLの維持を目指していくこととなります。
したがって、血糖値の適切な管理が非常に重要となります。日本糖尿病学会では、目標値を下表のように定めています。
治療強化が難しい場合の目標 | HbA1c8.0%未満 |
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合併症を防ぐための目標 | HbA1c7.0%未満 ※空腹時130mg/dL 、食後2時間後180mg/dL |
血糖を正常化するための目標 | HbA1c6.0%未満 |
上記は一般的な目標値ですので、低血糖のリスク、臓器の障害レベル、ご年齢、サポート体制などを勘案し、患者様それぞれに適した目標値を検討します。
血糖値の管理においては、インスリンなどのお薬の注射や内服をメインで実施します。また、担当医より運動療法や食事療法などの生活習慣の見直しについてもアドバイスさせて頂きます。
食事療法
食物繊維には糖質の吸収を穏やかにする効果があるため、食事の最初に積極的に摂取することをお勧めします。同時に、糖質の過剰摂取を控え、食事の栄養バランスに気をつけましょう。
脂質を過剰に摂取すると、動脈硬化や脂質異常症を発症する危険性が増しますので、肉類など動物性脂肪は摂りすぎないようにしましょう。
なお、青魚に含まれるEPAやDHAは血糖値を下げる効果を持っているため、意識して摂取することをお勧めします。また、ポリフェノールも同様の効果を持っていますのでお勧めです。
塩分の過剰摂取は高血圧を引き起こし、網膜症や腎症などの合併症のリスクを高めることにもなりかねないため、摂り過ぎは厳禁です。
運動療法
2型糖尿病の治療では、運動療法と血糖値の改善が必要です。
有酸素運動によって糖をエネルギーとして利用することで、血糖値を下げることができます。例えば、ジョギング、ウォーキング、水泳などがお勧めです。運動を習慣化することで、インスリンが機能しやすくなり、血糖値も管理しやすくなります。また、2型糖尿病の患者様は、運動療法の継続によって脳卒中の発症・死亡リスクが50%減るとも言われています。もちろん、1型糖尿病の患者様も筋力増強のため運動療法は効果的と言えます。
HbA1c値が高いと合併症の危険性があります
HbA1c値が高いことで懸念される糖尿病の合併症
HbA1cの値が高い方は、血管に絶えず大きな負荷がかかっている状態であり、糖尿病を契機に複数の合併症が起こる危険性があります。 糖尿病の合併症は、以下のように3つに分けられます。
細小血管障害
毛細血管などの細い血管で障害が起こります。
- 糖尿病腎症
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病神経障害
大血管障害
大きくて太い血管で動脈硬化などの障害が起こります。
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 閉鎖性動脈硬化症
※閉鎖性動脈硬化症:下肢の動脈の血流が悪化して、間歇性跛行などの歩行障害が起こる疾患のことです。
その他の病気
- 糖尿病性足病変
- 認知症
- 歯周病
糖尿病性足病変とは、足の血管が狭窄して神経機能が低下することで、感染症や潰瘍が起こる疾患のことです。タコ、足の変形、壊疽などの症状がありますが、糖尿病によって感覚が鈍くなっていると発症に気づかず、症状が悪化しやすいと言われています。
また、糖尿病の患者様は認知症や歯周病の発症リスクが高いと言われています。一方で、認知症や歯周病の患者様は、血糖値を管理しづらいと言われています。
HbA1c値が高いことで考えられる他の疾患
糖尿病以外の原因でHbA1cの値が高くなることもあります。具体的には以下のような原因が考えられます。
異常ヘモグロビン症
先天的なヘモグロビンの異常です。自覚症状は乏しく、HbA1cの値に異常が見つかったことがきっかけで判明することがほとんどです。また、ヘモグロビンの異常によって溶血性貧血などが起こることも稀にあります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、HbA1cの値が偽性高値になることがあります。脈拍の増加、体重減少、手の震えなどの症状が起こります。診断にはホルモン検査が必要です。
腎不全
腎不全によって血中尿素窒素(BUN)が増えると、HbA1cの値が偽性高値になることがあります。
HbA1cの値が高い方で、疲れやすい、足やまぶたがむくむ、食欲不振などの症状があれば、腎不全の疑いがありますので注意が必要です。